熊本県学校検尿マニュアル  熊本県医師会

 あいさつ

 昭和48に学校保建法施行規則が改正され、慢性腎疾患の早期発見と適切な事後措置を目的に尿検査が健康診断の必須項目に加えられました。昭和51年には尿潜血検査の義務化、更に昭和53年からは毎年全学年実施されることになりました。
 このような中、全国的に同じ方法で尿検査と検尿陽性者の事後措置を行うために、学校医、養護教諭、検査機関など学校保健関係者が活用できる「学校検尿のすべて‐計画から事後措置まで‐」が日本学校保健会により作成されました。このガイドブックは全国的に、活用され検尿システムが全国的に統一されましたが、その後の学校保健会の調査で、診断や生活指導に若干の問題が残されていることが明 らかになりました。
 このころから、各地で地域特性に合わせた検尿マニュアルが作成され、熊本県医師会でも昭和63年に腎疾患対策懇話会を発足させ、平成元年12月に学校検尿のシステム化と腎疾患児の現象を目的に尿蛋白と尿潜血検査を対象にした「熊本県学校検尿マニュアル」を作成いたしました。
 また、一部の地域では、尿蛋白、血尿の検査とともに尿糖検査も試みられ、無症状のうちに小児糖尿病が早期発見されるようになり、これが全国的に波及して平成4年から尿等検査が学校健康診断の正式項目に追加され、本県でも腎疾患対策懇話会から名称を変更した腎疾患対策委員会においてマニュアルに尿糖検査を追加いたしました。
 一方、九州学校検診委員会腎臓専門委員会においても、地域特性を考慮したどこでも簡単に利用できる統一したマニュアルを作成する動きがみられ、数年にわたり検討が重ねられた結果、平成16年11月に「九州学校腎臓病健診マニュアル」が作成されました。九州各県でも出来るだけこのマニュアルを用いることが求められ、本会では、学校健診委員会において、これに独自の糖尿病健診マニュアルを追加し、新しい「熊本県学校検尿マニュアル」として、関係各位に配布することにいたしました。
 学校検尿は小児慢性腎疾患と糖尿病の早期発見に効果をあげています。学校医、養護教諭、検査機関等、学校保健関係者に本マニュアルを広く活用していただき、検査成績と診断名の統一、また精度管理の向上等に繋がることを心から願っています。
 最後に、本マニュアル作成にご尽力いただきました熊本県医師会学校健診委員会委員、熊本大学医学部保健学科の服部新三郎教授ならびに熊本大学附属病院小児科の木脇弘二先生に心から感謝申し上げます。

平成19年4月
熊本県医師会長  北野邦俊


○健診の精度を高め、無駄をはぶくために大切なこと○

T 精度管理
  腎臓病健診においては、精度管理のために以下のような留意が必要です。

   @ 各検査機関では使用した試験紙の種類と判定基準は成績表に明記する。
   A 試験紙を正しく保存し、比較表の汚染を防ぐ。
   B 潜血試験紙については、製造後1年以上経つと、未開封であっても劣化する。
     開封後は、試験紙を取り出すとき以外は密封して冷暗所に保存し、2週間以内に使用する。
     なおビタミンCを多く含む食品・薬品を摂取した被験者の尿は潜血反応が偽陰性となる可能性がある。
   C 蛋白と糖の試験紙は未開封であれば使用期限内の精度は保たれる。
   D コントロールとして、蛋白、糖、潜血、の値がわかっている対象尿を、検体尿の間に必ず入れて、
     判定の精度を保つ。
   E 検査室の室内照度は自然光、昼光色蛍光灯で1000ルクス以上とする。
   F 検体は日陰で風通しのよい場所で保存する。
   G 検尿は採尿後5時間以内に実施することが望ましい。
   H 検査機関は毎年、各検査項目についての陽性率を健診委員会に報告する。
  (検査機関として健診に参画するには、精度管理の監査を受けることが必要)

U 正しい尿の取り方
  検査前日はビタミンCを多く含む食品・薬品を多量に摂ることは避けましょう。
   (検査前日は、夜間に及ぶ過激なスポーツもできれば控えたほうが望ましい。)

 1)早朝尿(早朝第一尿、中間尿)
   学校検尿では原則として早朝尿を検査します。

   @ 検尿前夜は入浴して、体(特に排尿部)を清潔にして下さい。
   A 就寝前は必ず排尿し、起床直後の尿を採尿して下さい。
   B その際は、出始めの尿を採尿せず、排尿途中の尿(中間尿)を採尿して下さい。

 2)早朝第二尿(早朝第二尿、中間尿)
   体位性蛋白尿による「蛋白尿偽陽性者」を減らす採尿法です。一次、二次検尿などで
   「蛋白尿陽性」と判定された場合は、この方法で行うようお勧めします。

   @ 検査前日は入浴して体(特に排尿部)を清潔にして、就寝前に必ず排尿
   A 第一回目起床直後の尿は捨て、コップ1杯の水を飲んだ後、再び安静臥床(30分間)
   B 早朝第二尿(第二回目起床直後の尿)を採尿、提出して下さい。
   C その際は、中間尿(出始めの尿を採尿せず、排尿途中の尿)を採尿して下さい。

 3)学校尿(随時尿)
   早朝尿を検査することが困難な児童・生徒に対しては、次善の策として、以下の要領で検尿を行う
   場合もあります。

   @ 始業前に排尿し、コップ一杯の水を飲んだ後、椅子にこしかけた一校時終了後の尿(学校尿)で
   検尿を行います。(これらの処置で体位性蛋白尿による「蛋白尿偽陽性者」の増加を、ある程度
   減らすことができます)
   A 定時制高校の勤労生徒の場合、早朝尿では、検査までに時間がたちすぎ正確な結果が
   えられないので、新鮮な学校尿を検尿に用います。

V 高学年女子の月経時の尿の取り扱い
  月経中及び月経終了7日以内の検尿は、月経血の尿への混入による影響がありえます。その期間は
  避けて採尿し提出させるのが理想的です。(集団検尿としてこの方法では受検率や回収率の低下が
  避けられない地域では、地域の事情に合わせた方針を前もって決定してください)


○学校腎臓病健診の概略○

T 検診システムの概略図



U 尿検査異常時の判定基準
定性 蛋白・潜血:「(+)以上」 沈渣 赤血球・白血球:1視野に6個以上
糖:「(+)以上」(100mg/dl以上)は糖尿検診へ 円柱:全視野に1個以上(硝子円柱は除く)


V 緊急受診システムとは?
  一次・二次検尿で、緊急を要する強陽性が判明した場合は、学校(地域によっては、検診委員会も経由)を通じて、
  保護者に緊 急連絡して医療機関受診を勧めるシステム(受診確認重要)。
  尿検査機関→(検診委員会緊急担当)→学校(養護教諭等)→保護者


  対象
  蛋白単独で4+以上、肉眼的血尿、蛋白潜血共に3+以上
  上記のうちのいずれか
  但し、・すでに医療機関で腎臓疾患として管理中の場合は除く
      ・尿検体が早朝尿であること、月経時尿でないことが条件


W 三次検診(学校医・主治医による精密診療)の内容
  (1) 問 診 (2) 理学所見 (3) 検 尿 
  (4) 血液検査・他……「血尿単独」、「蛋白尿単独あるいは蛋白尿+血尿」、「白血球尿」のうちの該当する
尿異常に対する検査項目を漏れなく実施してください。

       
必須項目
選択項目
血尿単独
尿窒素、クレアチニン、補体C3、IgA
末梢血、赤沈、尿酸、
尿クレアチニン、尿カルシウム
蛋白尿単独
あるいは
蛋白尿+血尿
尿窒素、クレアチニン、総蛋白、アルブミン、
総コレステロール、補体C3、IgA
末梢血、赤沈、尿酸、尿蛋白定量、
尿クレアチニン、尿β2マイクログロブリン
白血球尿
(学校検尿で実施する場合)
尿窒素、クレアチニン、腹部超音波
尿β2マイクログロブリン、尿培養、尿LDH分画

  (5) 前彎負荷試験…早朝第二尿と外来尿では鑑別困難な体位性蛋白尿疑い例に実施
  (6) 暫定診断・管理区分・フォロー間隔の決定
  (7) コメント…家族への説明、専門医・検診委員会への相談、紹介、連絡事項等
   (注1) 三次検診受診表・報告書に漏れなく記入して、提出。
   (注2) 尿異常者は、腹部超音波検査を一度は受けることが望ましい。

X 専門医紹介・精密検診が必要なものは?

  下記のうちの、1項目でも該当する場合は、専門医受診/精密検診を勧める。
その際は、三次検診(学校医・主治医による精密診療)の受診票と報告書を一対としてそろえて紹介する。

@ (+)程度の顕微鏡的血尿1年以上続く時
A (2+)以上んの蛋白尿や、血尿に蛋白尿が複合する場合
B 肉眼的血尿
C 低蛋白血症
D 3ヵ月以上の持続性低補体血症
E 血圧や腎機能障害の合併
F 家族性または遺伝性腎疾患の疑い
G 治療に対抗する尿路感染症


Y 学校生活管理指導表を必ず渡しましょう
  尿以上に対して管理が必要と判断された場合は、学校生活管理指導表に診断名(病名)や
  学校生活(運動や行事への参加の可否)等に関する指導区分を記載の上、本人、学校などに
  渡すことが重要です。年度初めや、年度内の変更等のたびに新しく発行してください。

※マニュアルダウンロードはこちらから →  PDF  

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